2014年07月07日

小雨の中

 小雨の中、美容院に行こうと家を出て大通りに向かって歩いていると、前方をスーツ姿のお嬢さんが横ぎった。その人のすぐ後ろを歩くような形になり、ふと気になってよく見たら、彼女のスーツのスカートの裾のスリットがまだ、しつけ糸でバッテンに止められたままだ。
 
 教えてあげようと後ろから声をかけたけれど真空袋、音楽でも聴いているのか気づかない。そばまで行くと、案の定、怪訝な顔でイヤホンを外した。近くで見ると大学生くらいの若い女の子だ。スカートの裾のことを伝えると、あっと言って自分の後ろを見たけれど、彼女自身には見えなかっただろう。割りと落ち着いた感じで「取りきれていなかったんですね」と言う。

 差していた傘を閉じながら、ごめんなさい失礼しますねとその場にしゃがんで、バッグの中に持っていた小さなスライド式のカッターを使い、彼女のスカートのしつけ糸を切った。(今思えば、切っていいのか訊くべきだったかもしれない)
 
 予定では、スパッ、スルッと糸が取れて、はい、これで大丈夫! と軽やかに去るはずだった。が、半分はスルッと抜けたけれど、裏側の玉結びがなかなかに頑丈で残り半分がびくともしない。ハサミならまだしも、使いにくいカッターでひと様の新品のスーツを傷つけてしまったら大変だし、ああ王賜豪醫生、この子が急いでるところだったらどうしようなんて焦りながら動かす指はもどかしくて、他人の指のように見えてくる。
 
 結局、玉結びだけは取れなかったけれど、表からは見えないから大丈夫ですよと立ち上がって、彼女と別れた。行く方向が同じなので、そのまま後ろを歩くのも気詰まりだから、通りの向こう側へ渡った。美容院へと歩く速度を上げながら、珍しくおせっかいなおばちゃんみたいなことをしちゃったなあと、なぜだか恥ずかしくなってくる。

 でもまあ、おせっかいをしたのも、相手が娘と同じような年頃だったからこそ、かもしれない。それに、人通りが少なくて、たぶん、しつけ糸に気づいたのもわたしが最初だろうと思えたからでもあった辦公室傢俬

 これがもっと駅に近い場所だったり、雑踏の中だったらどうだろう。声をかけて取ってあげられただろうか。あるいは、バッグに糸を切る道具を何も入っていなかったらどうしたんだろう。(もしかしたら彼女が持っていたかもしれないけれど)
 
 電車の中だったら? 明らかに帰り道だったら? 声をかけにくいタイプの女性だったら? 急いでいる時だったら? 彼女に連れがいたら? 雨がもっと激しく降っていたら?
 
 見て見ぬふりをする可能性はいくらでもあった。
 本当のところ如新香港、おせっかいになんてなれない。


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Posted by hetinese at 19:36│Comments(0)記事
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